写真
ニュース

【御報告】2021年7月26日(月)に MOTシンポジウム: 世界経済展望シリーズ③「気候変動とエネルギーのチャンス」をオンラインで開催。野村アセットマネジメント株式会社の榊 茂樹様をお迎えしました

東京理科大学MOTは、様々なテーマについて、皆様と議論を重ねていく場をオンライン中心に展開しています。
2021年7月12日から3回のシリーズで、経済番組での解説などでおなじみのフェルドマン教授によるMOTシンポジウム: 世界経済展望シリーズを3回にわたって開催しております。

第3回目の7月26日(月)は、「気候変動とエネルギーのチャンス」と題して、気候変動を止めるためのエネルギー転換が日本にどのビジネスチャンスをもたらすかについて、フェルドマン教授が説明をし、それに対して榊 茂樹様(野村アセットマネジメント(株) チーフ・ストラテジスト)からコメントをいただきました。


フェルドマン教授のポイント:
政策:
(1)菅総理が導入した脱炭素化政策は、次期政権になっても変わらないでしょう。国民の支持もあり、反対する政党もありません。ビジネス界は既得権益はあるが、世界中の国々が化石エネルギーより安い再生エネルギーを導入しているなか、日本が遅れたらさらに国際競争力を失うことがわかっています。
(2)2021年の「エネルギー基本計画案」は7月21日に発表されました。2018年版に比べて脱炭素目標は果敢になったが、目標の実現は疑問です。例えば、一次エネルギーの化石燃料分を今の約14.0EJから2030年に約11.7EJに減らす(21%減)目標だが、CO2排出量を1029gtから689gt(33%減)が目標です。すると、化石燃料の「CO2集約度」を12%減らす必要がある。どのようにCO2密度をこれだけ減らすかは不透明です。
(3)このように政策が曖昧になっているなか、民間企業がエネルギー転換を率先して実行する必要があります。

エネルギー転換の原動力:
(1) 1950年から1970年までの日本のエネルギー転換(石炭―>原油)は、原油が極めて安かったことが原因でした。
(2)ラザード社(米国の投資会社)の調べによれば、ソーラーPV初の電力の総原価は、2009年の36米セントから2020年に3.7米セントに、90%減になった。民間企業は、このようなチャンスを逃さないと思われるので、国内のエネルギー転換を進めるでしょう。

有望な技術
(1)日本にとって有望な技術は、ソーラーPV、浮体式洋上風力、地熱、電気系統用の蓄電池、水素、電気自動車、水素飛行機などです。
(2)それぞれの新技術の相互効果も期待できます。例えば、ソーラーパネルを農地の上に設置すると、場合によってソーラーパネルがもたらす日陰効果によって農産物の収穫 も上がり、農産物がパネルに対する冷却効果によって発電量を増やす。

榊様のポイント:
可能性vs実現性:
エネルギー転換の可能性やビジネスチャンスに関して異論はありませんが、大半の日本の産業はエネルギー転換に関しては積極的に取り組んでいないし、政府や経営者が何をすればいいかの知識とインセンティブが足りません。

CO2削減ペース:
ここ30年間、日本のCO2削減ペースは欧米に大きく劣っています。GDP当たりの温室効果ガス排出量は米国では高いものの削減ペースは速くなっています。欧州は30年前は日本より多かったのに、今は日本より少なくなっています。CO2削減の一つの理由はサービス化であり、もう一つは製造業も生産工程を途上国に移転させ、設計、デザインなどの付加価値の高い分野に特化したことでしょう。ただ、この二つだけで日本と欧米のCO2削減の差異は説明できません。日本の技術経営は遅れていると思われます。

知財管理の欠如:
日本では知的財産への投資が遅れ、新しいアイディアや技術をビジネスチャンスにする認識が薄いようです。それが日本のマクロ生産性を阻んでいます。既存産業を守る意識や規制構造が変わらない限り、日本の生産性成長率は低いものに留まるでしょう。環境と経済のどちらを優先するかという話になりがちで、結果的に温室効果ガスの排出削減が進まないでしょう。知的財産を中心にした新たな投資により、温室効果ガス排出量を減らしながら生産性を高める方向に持っていかなければなりません。榊様とフェルドマン教授のお二人の間で率直な意見が交わされ、白熱した議論となりました。その後、ご参加の皆様と活発な質疑、議論となりました。

東京理科大学MOTでは「生きた学び」を重視し、様々なプログラムを展開しています。今後も様々なテーマについて、皆様と議論を重ねていく場をオンライン中心に設けて参ります。どうぞご期待ください。

その他のニュース