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活動紹介

【生越由美】2022年10月24日(月)「特許ニュース」に論文が掲載されました。

一般社団法人 経済産業調査会が発行している「特許ニュース」のNo15762 に『超スマート社会における知財戦略(28)』が掲載されました。概要は下記です。

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「第2節 バイオエコノミー」について引き続いて検討した。今回以降、米国、EU、イギリス、ドイツ、中国、日本のバイオエコノミーに関する政策の比較を行うこととしている。

◎比較手段

「ドイツ生物経済評議会(the Bioeconomy Council)」が作成した4つの報告書をベースに議論する。

この評議会は、2009年にドイツ連邦教育研究省(BMBF)とドイツ連邦食品・農業・消費者保護省(BMELV)によって、ドイツ連邦政府の独立諮問委員会として設立された組織である。メンバーは、産業界、社会、科学を代表し、その専門性はバイオエコノミーバリューチェーンの全領域をカバーしている。評議会の主な任務は、ドイツ国内および世界における持続可能なバイオエコノミーの発展を促進するためのアドバイスを提供することである。

今回は第1回目の報告書が対象である。世界で初めてまとめられた「バイオエコノミーに関する報告書」であるので詳細に検討した。EUとG7が対象であったため、中国は比較していない。報告書は8つの質問に対する回答形式でまとめられているので筆者も踏襲したが、ここではポイントだけ紹介する。

ドイツ生物経済評議会がターゲットとするバイオエコノミーの範囲(概念):筆者作成
◎米国
オバマ政権時代の「バイオエコノミー・ブループリント(2012年)」が最初のバイオエコノミー戦略である。特徴は国防省が研究予算をかなり負担している点。国防省の研究成果のアーパネットがインターネットに成長したように、先端的でリスクのある分野に予算を投入する姿勢は堅持しているようだ。「合成生物学」と記載があるのも米国だけである。筆者の研究では、合成生物学はマサチューセッツ工科大学がけん引している先端研究分野であり、ここに投資したのも国防高等研究計画局(DARPA)であるので符合した。
◎EU
バイオエコノミーの支援活動に「標準化に関する研究」と「欧州標準化委員会(CEN)における実施活動の調整」が入っている。研究開発と並行して標準化戦略を構築していることが窺える。また、海洋資産に重点を置いた「ブルー成長」という用語を使用している点も参考になる
◎イギリス
2013年の「アグリテック戦略」と2014年の「BBSRC計画」において、工業製品に重点を置いた点である。食品やエネルギーの枠を超え、工業製品の新製品開発の手段にバイオエコノミーを検討した点が新しい視点だと思う。
また、量的な目標として、バイオエネルギーは50,000人の新規雇用を創出すると雇用人数を明示することは国民にとってイメージしやすいので重要だと思う。
◎ドイツ
潜在的な利益相反を考慮して、バイオエコノミーを促進するための具体的な政治的行動の包括的なリストを提供」と「戦略は、透明性を高め、潜在的な利益相反を特定」という表現中の「潜在的利益相反」の議論が重要である。
解説すると、一般的に、新しい技術を導入する際、既存の産業とコンフリクトが起こることは通常である。特に、環境技術の採用においては法律の整備が必要になるケースが多い。例えば、太陽光発電を個人の家に導入する際、装置を買ってくれば取り付けられるわけではない。既存の電力会社との役割分担を法律で手当てする必要がある。潜在的利益相反を常に意識している点がドイツらしいと思う。
◎日本
「バイオマス産業化戦略(2012)」が該当すると日本政府は回答したようだ。この戦略は、7つのイニシアティブまたは行動分野が定義されている。1)基礎研究 2)技術、3)バイオマス供給 4)需要と市場開拓、5)具体的なバイオマス戦略 6)総合支援戦略、7)グローバリゼーション戦略である。この戦略は、「7つの行動領域のそれぞれに対する対策を提供」とあるようにバイオマスについてはかなり進んだ戦略である。国内では「里山」というフレーズなどヒットした言葉もある。ちなみに、米国、欧州勢の戦略には、「林業」「海洋漁業(ブルー成長)」などのフレーズが多用されている。この分野は日本に大きなチャンスがあると思う。
◎まとめ
気候変動、化石・鉱物資源の枯渇、世界の食糧事情、生命科学の大きな進歩などを背景に、G7メンバーはバイオベース経済への位置づけに相当な努力を払ってきた。これらの取り組みについては、本報告書では詳述している。
ドイツ、米国、日本は、具体的な国家バイオエコノミー戦略で野心的な目標を掲げている。また、イギリスはバイオエコノミー政策を採用していないと回答したが、バイオベース経済の発展を実際に促進するために多くの支援を行っている。
この報告書が発表された2015年時点で「バイオエコノミー」という用語や概念を使用していなくても、実質的に各国・機関は政策を採用していた。
G7グループの中では、欧州連合がバイオエコノミー政策の推進役となっている。EUの政策戦略に組み込まれるだけでなく、「Horizon 2020」研究プログラムの枠組みで、バイオエコノミーに相当な資金が計画されている。
合成生物学、ブルー成長、林業、標準戦略、工業製品に重点を置くこと、潜在的な利益相反、バイオマスの総合戦略など、2022年の現時点でも検討すべきキーワードが多数指摘されている。

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