2025.08.22 修了生が紹介するMOTの講義

専門科目「企業家論(アントレプレナーシップ)」(藏知弘史教授|第4回:ゲスト講演:経営は無理をせよ、無茶をするな ~ 伝える言葉と考えさせる言葉 ~

【2025年夏学期】

伊丹先生(一橋大学名誉教授、中小企業大学校総長)は理科大MOT創立当時から長い間、研究科長を務められ、MOTを育てあげた人物である。残念ながら、私が入学した時は既に退任され、国際大学の学長に就かれており、講義を受ける機会はなかった。しかし、授業のテキストや卒業研究の参考文献として、伊丹先生の著書は何度も読み返している。よって、私にとっての伊丹先生は、教科書の中だけの大先生である。

もう受ける機会はないだろうと思っていた伊丹先生の講義を聴講する機会を頂いた。藏知教授の「企業家論(アントレプレナーシップ)」にて、伊丹先生がゲスト講師として登壇することになったからだ。

今回の講義は、近著『「経営は無理をせよ、無茶はするな」~オーバーエクステンション戦略のすすめ~ 』をテキストにして、受講生が提出した「疑問メモ」と自社のオーバーエクステンション(以後OE )の「ケース分析」とを用いて議論をするというものであった。OEとは、自社に十分実力が無い事を承知の上であえて新事業に挑戦する戦略である。OEは先生の造語で40年以上前から提唱している経営戦略の一つの理論である。

教科書から出てきた先生は、言葉の魔法使いだった。先生は日本語の通訳をしているだけと言うが、受講生の疑問メモの言葉を受講生全員が理解できる言葉に変える、そしてその言葉によって一人一人が深く考えられる様になる。あなたの言いたいことは「こういう事ですね」と言ったとたん、受講生全員が疑問メモの本質を理解して教室は一つになる。そして、先生は間髪入れずに「君ならこういう時どう考える?」と投げかけると、ここから熱い議論が始まるのだ。

先生は落語家の様に笑いを誘ったかと思えば、取り調べを受けているかの様に容赦なく質問を浴びせる。有る時は脱線して、笑いに包まれながら議論が進むが、曖昧な答えや、一貫性の無い答えは容赦せず、笑いをとりながらも厳しい質問をかえす、このやりとりから先生の熱い教えの情熱が伝わってきた。議論には「OE戦略」の論理が沢山詰まっていた。

新事業に挑戦する企業の多くは十分な力を持っていない、そこで仕事をしながら現場の一人一人が学習し、その力を蓄積する必要がある。この困難で辛い学習プロセスを支え、勢いづけるしかけづくりを「OE戦略」の論理を用いて議論をしながら説いていた。

講義の終わりに「経営戦略とは現場で仕事をする人の為の基本設計図を書く事、現場での学習を促進する部分を意図的にいれることの重要性を強調したくこの本を書いた」と仰っていた。それは、企業活動において無理をさせられる仕掛けを作り、新しい事に挑戦するTOPミドルになって欲しいという先生からMOT生へのメッセージに聞こえた。

先生と受講生のやり取りは、講義が終了するまで同じ熱量で続き、ブランクを感じさせない熱く笑いの絶えない素晴らしい講義であった。

執筆:2019年度修了生(元製造業顧問)