2026.01.15 修了生が紹介するMOTの講義

専門科目「サプライチェーンに関する経済規制・安全保障」(諏訪園貞明教授)|第6回:経済安全保障に関する交渉について

【2025年冬学期】

半導体をはじめとする「特定重要物資」や先端技術の領域は、安全保障の観点から近年さらに重要性を増しており、2022年5月には経済安全保障推進法(※1)が成立するなど法整備も進んでいる。こうした新しい課題や動向を受けて設置された科目が「サプライチェーンに関する経済規制・安全保障」だ。理科大MOTが目指す科学技術と経営の実践的融合に関連して、経済規制・安全保障において必要となる専門的知識の習得をねらいとしている。

経済安全保障をめぐる外部環境や知見は、幅広い領域に及び、変化も激しい。加えて自社のみならず、社会的な望ましさという観点も重要だ。直近の国際情勢の影響を考慮したり、実際に直面する課題の打開には交渉技術も求められたりするなど、一筋縄では行かないテーマといえる。本科目は日本銀行や公正取引委員会、経済産業省等において、多くの国際会議や法案の省庁間調整に関わった諏訪園貞明教授(※2)が担当。自身が経験した実例も交えながら、各国や関連省庁など内外のステークホルダーの利害を読み解き、国内のみならず様々な国の企業・公的機関と交渉を行うための知見と倫理を説いている。

今回受講の機会をいただいたのは全8回のうち第6回。2026年最初の授業ながら、冒頭から活発な質疑と議論が展開された。まずは前回提出のレポートについて、学生と双方向のやり取りで丁寧なフィードバックが返される。学生からは日本製鉄の米USスチール買収や、米国とデンマーク領グリーンランドをめぐる問題など、オンゴーイング(進行中)も含む難しい具体例について疑問やコメントが提示された。

どれもそれだけで1時限分の講義となりうる大きなトピックに対して、諏訪園教授からは公開情報や報道の深掘りに加え、海外の政府高官と意見交換した際の実体験や、国際会議の休憩時間での裏話も交えながら各ケースへの見解が示される。学生からも個別事例の豊富さだけでなく、ハーバード流交渉術とドイツの哲学者ヘーゲルの「弁証法」の類似点など、学際的な意見も多く出され活発な議論となった。多様なステークホルダーが絡む事例から横断的な学問領域、歴史的な出来事にも及ぶ幅広い論点には、まさに経済安全保障や交渉技術において必要不可欠な多角的視野が表れているように思われた。

今回、交渉術については座学としての講義も行われた。筆者も理科大MOTに在籍していた際に教えを受けた一人であるが、諏訪園教授の講義における特徴のひとつは質・量ともにボリュームのあるオリジナル資料だ。前述のような実体験に基づくケース解説に加え、ハイレベルな交渉が行われた歴史上の事件、その背景となる心理学やゲーム理論などの学際的知見、さらにはスパイ小説に描かれたインテリジェンスまで、ここでもテーマやトピックは多岐にわたる。交渉術は実際に場数を踏まないとわからない難しさもあるが、こうした多種多様かつディテールが豊かな知識やケースは、まるで自分事のように追体験することも可能であり、現実の課題に直面したときをイメージする助けになるだろう。

今年度の本科目では、半導体や重要鉱物、抗菌性物質製剤など政府が定める特定重要物資(※3)について、指定された物資を扱う民間企業を想定して経済安全保障上の対処方針を策定するグループ発表が到達目標となっている。筆者が聴講した回では最終発表に向けたグループワークの時間が設けられ、これまで経済規制・安全保障に関して学んだ知見を踏まえながら各チームで取り上げる重要物資の検討が行われた。半導体を筆頭に、重要物資はMOTの中心テーマであるイノベーションとの関わりも深い。本科目を通じ、技術経営のみならず安全保障も担えるCXOのスキルが培われることを期待したい。

執筆:2022年度修了生(損害保険業勤務)

※1 内閣府ホームページ「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(経済安全保障推進法)」:https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/suishinhou/suishinhou.html
※2 諏訪園貞明教授:https://most.tus.ac.jp/facuity/sadaakisuwazono/
※3 内閣府ホームページ「サプライチェーン強靱化の取組(重要物資の安定的な供給の確保に関する制度)」:https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/suishinhou/supply_chain/supply_chain.html