日戸 浩之 教授 Hiroyuki Nitto

コンサルティングの現場か
ら、マーケティングの理論
・実践を革新する

東京大学文学部社会学科卒業、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。野村総合研究所入社、コーポレートイノベーションコンサルティング部グループマネージャー、未来創発センター上席コンサルタントの他に、北陸先端科学技術大学院大学客員教授を兼務。2019年4月 に本学教授(みなし専任)に就任し、2020年4月より現職。『デジタル資本主義』(共著、東洋経済新報社)により第28回大川出版賞受賞。
他に共著書に『第三の消費スタイル』(東洋経済新報社)、『大衆化するIT消費』(東洋経済新報社)、『なぜ、日本人はモノを買わないのか?』(東洋経済新報社)、『なぜ、日本人は考えずにモノを買いたいのか?』(東洋経済新報社)などがある。

教員の志史

─ 継続的な学びが自らの大きな資産になる ─

大学生までの頃 高校までは長野市で育ちました。実家が善光寺の近くにあり、通った高校も歩いてすぐのところにありました。2018年の冬に、NHKで放送されたアニメ『ツルネ』の舞台は母校の高校がモデルになっていることを知り、懐かしく番組を見ていました。

私は部活が吹奏楽(担当していた楽器はアルトサックス)で、仲間と中学、高校を通じて没頭していました。当時は地方には情報が少なかったと思います。どのような職業やキャリアパスがあるとか、大学にどのような専攻があるというようなことはあまり知らずに過ごしていました。

大学からは東京で生活をするようになるとともに、最初の2年間の教養課程で様々な学問に触れることになります。また当時、一般教養ゼミナールという演習の科目があって、社会学の文献を読む機会がありました。若手の助教授の先生を囲んで飲みに行ったり、合宿に行って語り合ったことを覚えています。その時の仲間とは今でも交流があります。

2年間の教養課程を経て、あまり明確に専攻を定められず、結果として専門課程は幅広く研究テーマを選ぶことができる社会学科に進学しました。そこで学んだ統計学・社会調査などが後々、役に立つことになりますが、当時はポストモダンと呼ばれた哲学や、文化人類学、経済学の議論が大流行していて、それに関連する文献を読んでゼミや勉強会で議論するということがよく行われていました。当時の議論の内容は今から考えるとあまり実践的な内容ではありませんでした。ただ、物事の考え方、ロジックの展開といった思考方法を習得するトレーニングとしては大いに役立っていると思います。大学での専攻と個々人の思考パターンにはかなりの関連性があり、それが各自の個性に繫がっていると私は考えています。

 

シンクタンク研究員として

社会学科は伝統的に、テレビ、新聞、広告といったメディア系に進む人が多かったのですが、私は漠然と社会と個人をめぐる様々な課題を解決することに取り組みたいと思っていました。そこでたまたま野村総合研究所が大学卒の研究員を募集していることを知り、研究員として入社することになりました。

配属先は経済調査、投資調査を担当する本部と官公庁および民間企業を対象にした区宅調査研究を担当する本部に分かれていたのですが、私は後者の当時、鎌倉にあった本部に配属されました。そこで、環境変化と生活者の変化の分析に基づく、将来社会論、政策のあり方などをめぐる研究や民間企業の経営計画策定などの業務に携わることになります。それらのテーマのプロジェクトのベースにあったのが、日本人の生活価値観の研究などをはじめとする、生活者の意識・行動の調査分析であり、多変量解析などの統計的な手法を用いた分析を担当する機会を得ました。

 

大学院への留学

入社10年目に社費で留学する機会を得ました。コンサルティングにこの後、取り組んでいくために、特にマーケティングをめぐる知見を深めたいという希望から、東京大学大学院経済学研究科修士課程に留学しました。

大学院ではマーケティング・サイエンスの演習に参加するとともに、経営戦略論、ものづくり論、経営組織論、経営史などについて幅広く講義を受けたり、一部は共同研究にも参加させていただくなど、2年間、集中して学ぶことができました。

私はそれ以前に、別の大学院で学ぼうとしましたが、結局、業務と並行して続けることができず断念したという経験があります。その後、幸運にも2年間、仕事を離れて学ぶ機会を得ることができ、それまでの業務経験を見直して、その後の取り組みに向けた土台となるような知識・経験を蓄積することができました。

これから、社会人として学びたいと考えている皆様には仕事との兼ね合い、調整など、様々な問題が生じると思いますが、改めて学び直す経験は大きな資産になると思いますので、是非、頑張って取り組んでいただきたいと思います。社会人が大学院で学ぶことにより、実践的な知識を得るだけではく、今までの業務やビジネスでの経験を見直したり、勤務先での付き合いとは異なる仲間、ネットワークが得られることができ、それらを今後の人生に活用していただきたいと思います。

 

コンサルタントとしての活動

留学から復職して以降、私はマーケティング領域のコンサルタントとしての活動を現在まで続けています。

主に民間企業からの委託を受けて、消費者の分析等をベースにしたマーケティング戦略、具体的には企業の商品開発、ブランド戦略、販売戦略、チャネル戦略などをテーマとしたコンサルティングのプロジェクトを責任者として主導するとともに、マネージャーとして管理する立場での活動を担当しています。

また近年、インターネットを活用したデジタルマーケティングの領域での活動が活発化する中で、コンサルティングとソリューション開発の組織が連携して、デジタル技術を絡めた企業のビジネスモデルの構造変革、マーケティング戦略の再構築などに関するプロジェクトの依頼が増えています。その中で、様々な顧客接点から取得可能になったEC(電子商取引)の購買履歴、ソーシャルメディアなどの各種データのアナリティクス、統計的分析を通じたコンサルティング、研究を中心に取り組んでいます。さらに今後は、デジタル化が社会、企業経営、個人に与える影響について、研究を進めていきたいと考えています。

併せて、コンサルティングの実務では消費財メーカーやサービス業を中心とする業界の大手企業の中期経営計画の策定、各種事業戦略などのプロジェクトを担当しており、その実績を生かして、B to Cの事業領域での経営戦略、事業戦略に関するコンサルティング、研究も継続的に行っています。特にサービス業の中で、教育・人材産業セクターを担当しており、学校法人、大学向けのコンサルティングプロジェクトを行った経験があります。

今後、本専攻においては、コンサルティングの実務を通して培ったノウハウ、コンサルタントしての専門性や顧客企業と共同でのプロジェクト実践などの経験を生かして、社会人学生の皆様に対して、実践的な内容の教育や双方向でのコミュニケーションをベースにした教育を行いたいと考えています。