田村 浩道 教授 Hiromichi Tamura

幅広い証券リサーチの経験を
生かして、「技術系は金融を
知らない、金融系は技術を知
らない」のギャップを埋める
ことを心がけています。

(株)野村総合研究所企業調査部(現:野村證券金融経済研究所)に入社し、技術調査とファンダメンタルアナリスト業務に従事。その後、野村證券(株)にてクオンツアナリスト、チーフクオンツストラテジスト(野村ロンドン)、エクイティ・リサーチ部チーフ・ストラテジスト、クオンツリサーチ部長等を務めた後、インデックスの構築と管理等を行うFTSE Russellにてアジア・パシフィックインベストメントリサーチ・ヘッドを務める。1999年から2000年までUCLAアンダーソンスクールで客員研究員。
2021年4月より本専攻非常勤講師、2022年9月より現職。証券アナリストジャーナル編集委員。

教員の志史

「理系修士からNRIへ」
30年以上の遠い昔になりますが、私は早稲田大学理工学部の電子通信学科というところで、「非定常確率過程の時間―周波数表現」というテーマの研究をしておりました。学部時代の研究では十分な成果は得られなかったものの、修士論文ではある程度オリジナリティのある研究成果を出すメドが立ち、さあ就職活動、という流れになりました。当時の理系の就職は、メーカー系は教授推薦が取れれば無条件で合格、メーカー以外(いわゆる文系)を希望するのであれば、各社で就職面談試験を受けるというのが一般的でした。私は、高校生の時より、将来はメーカーの研究者になりたいという夢を持っていましたので、当初は人気企業(当時はNTT、ソニーなど)への就職を希望しました。ただし、そこには壁がありました。教授推薦の数は各社で限られており、人気企業への応募者は推薦枠の数より多かったのです。この場合、最終的にどのように決めるかというと、成績でも適性でもなく、「じゃんけん」でした。自分の将来を果たして「じゃんけん」で決めて良いのかという疑問が生じ、結局はメーカーへの道を諦め、普通の面接活動を通じて野村総合研究所に就職することになりました。

 

 

「クオンツ、ストラテジストとして、世界中の投資家とディスカッション」
NRIでの最初の配属は技術調査室というところでした。注目されているハイテク技術がどのように発展し、市場を創造し、関連企業の業績や企業価値にどのような影響を与えるか調査、予想し、機関投資家に情報提供をする部署です。私は、当時黎明期であった「カーナビゲーション」の調査を担当し、先輩方の支援を受けながら、レポートにまとめ、内外に情報発信しました。新人ながら、機関投資家やメーカーの方に評価され、大いにやりがいと感じたものです。
その後、電機メーカーをカバーするアナリストを経て、定量分析を行うクオンツリサーチに配属されました。当時は、「クオンツ」という仕事の存在を知らず、またアナリスト業務にやりがいと魅力を感じていたので、この転勤には大きなショックを受けました。この世の終わり、くらいに落ち込んだことを覚えています。しかし、クオンツもファンダメンタルアナリストも、インプットとアプローチは違えども、アウトプットは機関投資家向けの有益な投資情報であるという意味では同じであり、自分のアイデアとリサーチ結果を世界中の投資家にぶつけるという点で、同じくらいエキサイティングな仕事であるということに気づき、クオンツの道で精進する決意が出来ました。その甲斐もあり、クオンツとしての社内外での評価もされ、UCLAへ客員研究員として最初の社費留学リサーチャーに選抜されることもできました。その後、野村證券のチーフストラテジストとして、会社を代表して株式の相場観を発信する立場にもなりました。野村證券を離れてからは、英国の指数会社であるFTSE Russell社のAPACリサーチヘッドという役職で、指数開発の指揮を執りました。

 

 

「MOTでミッションと考えているもの:エンジニアの地位向上」
2022年には、ご縁があり、理科大MOTで教員となることになりました。冒頭に、学生時代にメーカーで研究者になる夢をあきらめたのは「じゃんけん」であったと記述しましたが、実は別の理由があります。私は当時、「エンジニアは、商社やコンサル、金融と比較して、圧倒的に不当に低い処遇にさらされている。そして、この状況は私の働いている間は変わらないだろう」と考えたからです。なぜ、理系のエンジニアの処遇が低いのか、その理由の一つは「経営層が理科系エンジニアの報酬が低くても構わないと考え、かつエンジニアも経営が何たるかを積極的に知ろうとしない」からではないでしょうか。つまり、エンジニアがMOTを通じて「経営を知る」ことになれば、エンジニアの地位向上に繋がるのではないかと思うのです。私は、幅広い証券リサーチの経験を生かして、「技術系は金融を知らない、金融系は技術を知らない」のギャップを埋めることをミッションと考えています。学生の皆さんには、ぜひMOTでの学びをエンジニアの地位向上につなげ、ひいては日本の製造業復活の大きな力となって頂きたいと願っています。