2025.01.10 修了生の活動
取締役として活躍中のMOT修了生との対談記事を公開
2024年3月に理科大MOTを修了した清水伸二さんは、入学時の2022年度から第一工業製薬株式会社取締役に就任され、現在は取締役CFOとして活躍されています。大学院生時代を振り返っていただきながら、理科大MOTでの学びをどう活かしているのかお伺いしました
清水 伸二(写真:右)
第一工業製薬株式会社 取締役CFO
1992年第一工業製薬入社。2014年人事総務本部人事総務部長、2016年から第一工業製薬の中国現地法人にあたる双一力(天津)新能源有限公司で総経理、2018年に双一力(天津)新能源有限公司董事を務める。
2019年に第一工業製薬に戻り財務本部財務部長、2020年に執行役員生産本部長に就任。
2022年4月に執行役員管理統括を経て6月に取締役に就任。2024年4月から現職。
日戸 浩之(写真:左)
東京理科大学 大学院経営学研究科 技術経営専攻 教授
東京大学文学部社会学科卒業、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。野村総合研究所入社、コーポレートイノベーションコンサルティング部グループマネージャー、未来創発センター上席コンサルタントの他に、北陸先端科学技術大学院大学客員教授を兼務。2019年4月 に本学教授(みなし専任)に就任し、2020年4月より現職。『デジタル資本主義』(共著、東洋経済新報社)により第28回大川出版賞受賞。
より高い視座で事業を見渡すために
日戸:理科大MOTに入学されるきっかけは何でしたか?
清水:私は新卒で入社以来、一貫して第一工業製薬株式会社で勤務しています。弊社は界面活性剤をはじめ、高分子材料、ウレタン、樹脂薬剤などの産業・工業用の薬剤、添加剤などを製造販売している化学品メーカーです。入学のきっかけは、もともとは当社代表取締役会長からの推薦でした。当時、私は、執行役員で生産本部本部長を拝命しておりましたが、会長からもう少し高い視座からしっかりと会社を見られるように理科大MOTで知識をつけたらいいと提案があったわけです。そのころの私には380人ほどの部下がいて、全生産拠点を管理していたので学業との両立はかなり大変だなと懸念しつつも、同時にまたとないチャンスだと思いました。
日戸:第一工業製薬株式会社の本社は京都にありますよね。東京への通学はネックになりませんでしたか。
清水:理科大MOTでは土曜日にかなりの単位が取得できるということが分かっていたので、遠距離通学のことはあまり心配していませんでした。それに10年ほど前になりますが、別の大学院に通った経験があることも大きかったですね。そのとき学び続ける大変さを味わいながらも、いざ修了の日が近くなると非常に寂しい思いをしたことが印象に残っていました。ですから、理科大MOTに入って再び学べるということが、率直にうれしかったのです。
日戸:本学MOTは、対面と遠隔(Zoomを利用したリモート)を併用したハイフレックス型授業を多くの科目で導入しています。神楽坂へ来なくてもリモートで受講できる点はいかがでしたか。
清水:様々な科目が東京へ行かずに受けられることはメリットでしたが、一部の対面限定授業が受けられなかった点は少し残念でした。とはいえ平日に対面授業を要請されても京都からの出席は難しかったので、リモート授業があったからこそMOTを修了できたのだと思っています。同期では入学後に香港の現地法人に異動された方がおりましたが、香港から多くの授業を受講されたりしており、同じ感想を抱いた人は多いのではないでしょうか。
日戸:執行役員 生産本部長として、実際のところ仕事と授業との両立は一方ならぬ苦労があったと拝察します。
清水:執行役員としての業務ならば、各プロジェクトを横串管理する仕組みを導入し、それぞれのPDCAをきっちり回してグリップすれば、学業との両立には支障がないと見込んでいました。ただ、ここでひとつ想定外の出来事が。合格通知をいただいてから1カ月も経たないうちに取締役を拝命することになったのです。これは私にとって未踏の領域であり、どのように踏破できるのかも十分に見通せない状況でしたが、とにかくやり抜くしかありませんでした。
日戸:ビジネスパーソンにとって、予期せぬ異動や昇進・昇格ということに直面されたわけですね。具体的にはどのような時間の使い方をされていたのでしょう。
清水:土曜日は神楽坂で講義を受けた後、遅くまで同期や先生とディスカッションをして東京に1泊。日曜は飛行機までのわずかな数時間を使ってレポートを仕上げるようなサイクルを作っていました。日曜午後をクールダウンの時間に充てることで、過度な負担を感じることなく乗り切れたように思います。
机上の空論に終わらない学び
日戸:入学前と実際に入学してからの印象の違いや、何か気付きはありましたか?
清水:入学前は、理科大MOTで技術経営の知識を吸収し、後継者の育成に活かしたいと考えていました。ですが、実際に入ってみるとR&Dに携わる同期が多かったこともあって、そちらの分野への関心が掻き立てられましたね。実務経験が豊富でマネージャークラスが多くかつ業界も職種もまったく異なる仲間たちと同じ立場で学ぶことが、入学前に期待した以上に良い刺激になったのだと実感します。繰り返しやって来るレポートの締切は、これもまた想像以上の試練でしたが、仲間に助けられたといいますか、同期とのつながりが自分の力に変わっていったと感じています。
日戸:本学MOTといえば、いわゆる修士論文に相当するグラデュエーションペーパー(GP)の執筆がハイライトといえると思います。1年生の後期から準備を始め、2年生になって本格的に研究に取り組む訳ですが、この2年間の集大成ともいえるGPをどのようなテーマで書き上げられましたか。
清水:ゼミでGPの主査をつとめていただいた日戸先生や1年生のときに指導いただいた宮永雅好先生と相談をしながら、知的財産権に関する分析を軸として論文を書くことにしました。これまで業務上ではまったく触れたことのない分野でしたが、自分の知っている領域だけでは新たな挑戦とはならない。未知の分野を学ぶことで視座を高めることが重要だと思ったからです。
日戸:グラディエーションペーパー(GP)の結びとして、これから取り組むべき3つの課題を具体的に掲げてらっしゃったことが印象に残っています。
清水:理科大MOTの学びを机上の空論にしないために、思い切って宣言いたしました。第一は、異業種とコラボレーションを実践し、新たなイノベーションを創出すること。これは現在、異業種4社に自治体、大学から成る産学官連携で新たな取り組みを始めたところです。第二の課題は、知的財産に関するものです。GP執筆を通して、それなりに見識を深めることができたので、これをきっかけに同業他社の知的財産部門と交流することになり、新たな商流にも繋がっています。第三の課題はデザイン思考です。当社における創発的な取り組みを活性化させるため、現在、執行役員以下、部長以上の特定メンバーにデザイン思考の講義を受けてもらっています。
イノベーションを起こし未来へ繋ぐ
日戸:2024年からは取締役CFOとしてご活躍と聞きます。財務を軸として、営業から研究開発、生産、経営管理まで、幅広い領域を取りまとめられているそうですね。
清水:創業115年を迎える当社は、今2025年4月からスタートする次期中期経営計画の策定と実践が大きな課題です。中期経営計画では、無形資産マネジメントを柱のひとつに定めていますが、これはまさに私が理科大MOTで取り組んだグラディエーションペーパー(GP)が土台になっています。知的財産や人的資本を適切にマネジメントすることで、ひいては有形資産の価値を高めていく。理科大MOTでの学びがなかったらこの発想はなかったと思っています。
日戸:改めて理科大MOTの魅力についてお聞かせください。
清水:理科大MOTに通っていた当時は、目前の勉強に追われる場面も多いのですが、後になって振り返ると、イノベーションを興すために必要な示唆に富んだ様々な知識に触れることができたことに気付きます。修了後にも継続する学びと気付き、これがまさに理科大MOTの魅力ではないでしょうか。
また、繰り返しになりますが、さまざまなバックボーンをもった同期との繋がりは非常に魅力的ですね。いまや異なる知見を持つ人と協働することでしか、新たなイノベーションは起こりえないのではと思うほどです。同期の方々とも、業種を超えたいくつかのコラボレーション企画が動きはじめていて、これからどうなるかとても楽しみですね。
日戸:最後に、今後の清水さんの抱負をお聞かせください。
清水:30年以上にわたり第一工業製薬に勤めた私にとって、「産業を通じて、国家・社会に貢献する」という当社の社是は、そのまま人生の軸にもなっています。取締役に選任いただいた以上、私が受け取ったバトンを、必ずや次の世代に繋いでいかなければなりません。そのためには、日本に限らず世界にも目を向け、柔軟に新しい打ち手を繰り出していきたいと思います。例えば、当社では文部科学省高専機構の学生も積極的に採用しており、最近ではモンゴルに設立された日本式の高専からも、すばらしい人材が集まってくれています。彼らが日本で技術や技能を学び、将来は母国の発展のために活躍してほしいと願っています。そのために新たな産業を作ることに取り組んでいます。近い将来その報告ができるように努力いたします。
日戸:貴社の未来を背負いご活躍される中で、今後も理科大MOTの学びが活きることを願っています。本日はありがとうございました。