専任教員

橘川 武郎 教授

専門は経営史・エネルギー産業

[経歴]
東京大学大学院経済学研究科単位取得退学。経済学博士。青山学院大学経営学部助教授、東京大学社会科学研究所教授、一橋大学大学院商学研究科教授を経て、平成27年より東京理科大学大学院イノベーション研究科教授(現職)。東京大学・一橋大学名誉教授。専門は日本経営史、エネルギー産業論。著書に、『日本電力業発展のダイナミズム』(名古屋大学出版会)、『松永安左エ門』(ミネルヴァ書房)、『出光佐三』(ミネルヴァ書房)、『電力改革』(講談社)、『日本のエネルギー問題』(NTT出版)など。総合資源エネルギー調査会委員などをつとめる。

[担当授業科目]
・ イノベーションの歴史 
・ 起業家精神の原則 
・ 実践リーダーシップセミナー 1-1〜3-2

橘川 武郎先生の活動一覧

志史 ~私の歴志~
─ 世の中を良くするための学問 ─

「哲学者たちは世界をたださまざまに解釈してきただけである。肝腎なのはそれを変えることである」。座右の銘としているカール・マルクスの言葉である。
 学生運動(非暴力)にいそしんでいたため、ひとより遅れて大学院に進学。31歳で青山学院大学に職を得てから、東京大学、一橋大学、東京理科大学と「大学の先生」を続けてきた。研究者をめざした時点でイデオロギーとは決別したが、「立派な学者」であるよりは「より良い世の中をめざす活動家」でありたいと、今でも思っている。

 専門は経営史。社会科学の一分野である。
社会科学は、既存の社会の仕組みを批判的に検証し、より良い世の中をめざして、変革の方向性を示すことに存在意義がある。その際、事実を重視する実証的アプローチをとるのであれば、析出した命題が事実を反映したものであればあるほど、現実を変える影響力は増大するはずである。実証的社会科学の一分野である経営史学に携わる私は、このような考え方に立って、「応用経営史」という手法を提唱してきた。
一般的に言って、特定の産業や企業が直面する深刻な問題を根底的に解決しようとするときには、どんなに「立派な理念」や「正しい理論」を掲げても、それを、その産業や企業がおかれた歴史的文脈(コンテクスト)のなかにあてはめて適用しなければ、効果をあげることができない。また、問題解決のためには多大なエネルギーを必要とするが、それが生み出される根拠となるのは、当該産業や当該企業が内包している発展のダイナミズムである。ただし、このダイナミズムは、多くの場合、潜在化しており、それを析出するためには、その産業や企業の長期間にわたる変遷を濃密に観察することから出発しなければならない。観察から出発して発展のダイナミズムを把握することができれば、それに準拠して問題解決に必要なエネルギーを獲得する道筋がみえてくる、そしてさらには、そのエネルギーをコンテクストにあてはめ、適切な理念や理論と結びつけて、問題解決を現実化する道筋も展望しうる、……これが、応用経営史の考え方である。

このような考えにもとづいて、大学で教えることだけでなく、社会的に発言することにも力を入れてきた。また、自分の専門知識を活かす形で企業とかかわりあうことも大切だと考え、これまで30冊ほどの会社史を編纂、執筆してきた。そのなかには、10電力会社中7社の会社史も含まれる。日本にある原子力発電所17サイトのうち16サイトも見学した。
2011年3月の東京電力・福島第一原子力発電所事故以降、社会的に発言する機会が増えた。そこでは、一貫して、「リアルでポジティブな原発のたたみ方」を主張してきた。原発の未来は、使用済み核燃料の処理問題(バックエンド問題)が解決するか否かにかかっている。解決しない場合は原発をたたまざるをえないから、そのための出口戦略も、一つの選択肢として準備しておかなければならない。それは、①立派な送変電設備を活用した火力シフト(原子力発電から最新鋭火力発電への転換)、②廃炉ビジネスによる雇用の確保、③オンサイト中間貯蔵(原発敷地内での使用済み核燃料の空冷・キャスク方式による中間貯蔵)とそれへの保管料の支払い、の3点からなる。この3点が実現すれば、現在の原発立地市町村も、原発のないまちづくりの「未来予想図」を描くことができる。

 原発の今後のあり方を論じる際に最も重要な点は、「反対」「推進」という二項対立から脱却し、歴史的コンテクストをふまえた現実的な解を導くことだ。リアルな議論を展開しなかったからこそ、原発推進派は、エネルギー自給率が低い資源小国でありながら、福島事故以前の時期も含めてこれまで、原発への風当たりを弱めることができなかった。ポジティブな対案を示さなかったからこそ、原発反対派は、広島・長崎・第五福竜丸を経験した被ばく国でありながら、これまでドイツの緑の党のような有力な脱原発政党を育てることができなかった。原発の未来について議論するのであれば、リアルでポジティブな姿勢が求められる。その際、応用経営史の手法は、有用であろう。
 ここまで述べてきたような「役に立つ経営史学」や「役に立つ社会科学」という考え方に対しては、当然、「学問として邪道である」との批判が寄せられるだろう。私は、それでも構わないと開き直る。肝腎なのは、現実を解釈することではなく、変革することだからだ。

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