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活動紹介

【生越由美】2022年9月28日(水)「特許ニュース」に論文が掲載されました。

一般社団法人 経済産業調査会が発行している「特許ニュース」のNo15745 に『超スマート社会における知財戦略(27)』が掲載されました。概要は下記です。
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「第2節 バイオエコノミー」について引き続いて検討した。今回は日本のバイオエコノミーに関する政策である。
◎日本
日本政府のバイオ戦略の歴史は予想外に古かった。換言すれば、昔から日本はバイオテクノロジーの重要性を認識しており、日本の戦略の出だしは遅れていなかったのである。
1999年からは民間団体が参画した議論となった。その後、2002年に「バイオテクノロジー戦略大綱」が制定され、数回の会議を経て、2006年に各省庁から報告させた。筆者はリアルタイムでこの報告を見ていたが、司令塔の不在を痛感し、夏休みの宿題に追われているような省庁の報告書ではビジネスに繋がらないと危惧していた。

バイオテクノロジー戦略大綱(2002年)の総論」から転載

近年、日本政府を目覚めさせたのは、2009年に発表されたOECDの「The bioeconomy to 2030」の予測値だと思う。「バイオテクノロジーの市場規模が2030年に約1.6兆円になる」、「工業が一番大きな区分」という発表はインパクトがかなり大きかったのではないか。
日本政府は、「ドリームBTジャパン(2008年)」から10年間、バイオ戦略を策定しなかった。2018年以降、「バイオ戦略検討ワーキングチームの中間とりまとめ(2018年)」、「バイオ戦略2019」、「バイオ戦略2020」、「バイオ戦略フォローアップ」と矢継ぎ早に戦略を発表している。
以下、時系列に紹介する。
① 科学技術会議(1959年)
「科学技術会議」は総理大臣の諮問機関として発足した。これに伴い、従来の「科学技術審議会」は廃止された。同年6月、諮問第1号「10年後を目標とする科学技術振興の総合的基本方策について」が諮問された。
ライフサイエンスにとっては、科学技術会議の諮問第5号「1970年代における総合的科学技術政策の基本について」が重要である。このとき初めて「ナショナル・プロジェクト」、「ライフサイエンス」、「ニーズ」、「シーズ」などの用語が使用された。
1975年5月に答申第6号「資源有限時代の科学技術政策」が発表された。重要な点は、「組換えDNA技術」の重要性が指摘されたことである。この技術は、1973年にコーエン博士とボイヤー博士によって米国において特許が取得された遺伝子に関する基本技術である。1976年、米国は「組換えDNA分子に関する研究のための指針」を公表した。続いて、英国(1976年)、フランス(1977年)、ドイツ(1978年)と続き、日本は1979年8月に「組換えDNA実験指針」が制定された。
②21世紀の知的財産権を考える懇談会報告書(1997年)
特許庁は「21世紀の知的財産権を考える懇談会(座長:有馬朗人・理化学研究所理事長)」を開催し、1997年4月7日に日本の経済発展の基礎として重要な役割を果たしてきた知的財産権に関する報告書をまとめた。特許庁のバイオテクノロジーに関するプロパテント政策は、21世紀を迎えるグローバル環境において,日本のバイオテクノロジー産業の確固たる発展推進に資する基幹的基礎技術として国家戦略上極めて重要な施策と指摘した。
③産業競争力会議(1999年)
小渕恵三内閣は日本産業の競争力強化の戦略を練るため、閣僚と財界首脳を招集した。米国のレーガン政権による米国産業競争力の復権と経済の再生に大きく貢献した「産業競争力委員会」の例に倣って,「産業競争力会議」を発足させ、バイオ産業が今後推進すべき産業分野であることが提示された。
④日本バイオ産業人会議&バイオ産業技術戦略(1999年)
「産業競争力会議」の発足により、「財団法人バイオインダストリー協会(JBC)」の理事長・歌田勝弘が世話人代表となり、約50のバイオ関連企業・財団・協会・センター・研究所等の代表者が集まって「日本バイオ産業人会議」を設立した。「わが国バイオ産業の創造と国際競争力強化に向けて(緊急提案)を発表し、「バイオ産業振興国家総合戦略」など3つの提言を行った。
「バイオ産業技術戦略委員会(委員長:大石道夫・㈶かずさDNA研究所所長)」を主催し、「バイオ産業技術戦略」を策定した。これが、⑤の一次とりまとめ(分野別産業技術戦略 バイオテクノロジー分野:「バイオ産業技術国家戦略」)に採用された。当時の日本では民間発の国家戦略が国の国家戦略に採用された先駆的な事例となった。
⑤国家産業技術戦略(2000年)
経済産業省産業政策局産業技術課が「国家産業技術戦略」を発表した。これは、「国家産業技術戦略検討会(座長吉川弘之)」によってまとめられたものである。座長の吉川弘之は日本学術会議会長であり,総合科学技術会議議員(有識者代表)を兼ねていた。産業技術力強化に向けての重要な指摘は「キャッチアップ型からフロンティア創造型への技術革新システムの改革である」とした。
(中略)
⑫バイオ戦略2019(2019年)
政府の「統合イノベーション戦略推進会議」の下、「医療・非医療分野」が一体となった新たなバイオ戦略策定の検討が始まった。これまで「バイオテクノロジー戦略」は何度も策定されてきたが、今回から日本語では「バイオ戦略」と呼ぶが、英訳は「Bioeconomy Strategy」とした。
⑬バイオ戦略2020(2020年)
 「バイオ戦略2020(基盤的施策)(統合イノベーション戦略推進会議決定が策定された。併せて、バイオ戦略タスクフォースが「バイオ戦略2020(基盤的施策)のポイント」を発表した。背景として、2019年10月7日には米国のホワイトハウスが「バイオエコノミーサミット」を開催し、EUやドイツも新しいバイオエコノミー戦略を打ち出していた。
バイオ戦略2019との大きな相違点は、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策(令和2(2019)年4月20日)への対策である。治療薬、ワクチン等の開発加速が期待され、バイオテクノロジーの活用が注目された。
⑭バイオ戦略フォローアップ(2021年)
「バイオ戦略フォローアップ(統合イノベーション戦略推進会議決定)」が発表された。同時に、内閣府の科学技術・イノベーション推進事務局が「バイオ戦略フォローアップ(概要)を発表した。
⑮バイオテクノロジーが拓く『第5次産業革命』(2021年)

産業構造審議会・商務流通情報分科会・バイオ小委員会が発表した。目的は、ゲノム解読の高速化・低コスト化、ゲノム編集技術における技術革新、バイオとAIなどデジタル技術との融合等により、バイオテクノロジーが広範な産業の基盤を支える「バイオエコノミー社会」が世界的に到来しつつあること。日本政府は2030年に「世界最先端のバイオエコノミー社会の実現」を目標としていることを掲げた。

図は、バイオ合成法と化学合成法で製造可能な化合物の分子量のレベルに関するものである。バイオ技術を生産技術として捉えると、今まで化学工程では作成できなかった高分子の化合物を得ることができる。鏡像異性体への対応やナノ技術への転用も可能である。バイオ産業以外の産業の関係者にもバイオ技術に関心を寄せて欲しいと思う。

(図)バイオ小委員会「報告書「バイオテクノロジーが拓く『第五次産業革命』(概要版)」から転載:

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