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岸本 太一講師 志史 -「実務家に貢献できる経営学者」になることを追い求めて-

2017/09/05掲載

大学を卒業後、就職をせずに、母校(一橋)の大学院に進んだ。数年後、博士号(商学)を取得し、そのまま大学の教員となった。
 子供の頃から、理屈っぽい人間だった。そして、‘理屈を駆使’して‘現実を好転’させることに、達成感を感じていた。それゆえ、そういった自分の特徴をフル活用できる仕事に就くことが、私の就職希望となった。
 理屈を考え、検証することが、主要業務の一つである学者、しかも専攻は実学と呼ばれている経営学。幸運にも、大学の教員になれた時点で、私は希望の半分を叶えることができた。
 だが、その時点では、あくまで希望の半分であった。原因は‘現実を好転’という部分にある。自分が達成感を感じていたのは、単に理屈を考える点にではなく、理屈が現実を好転させる際に貢献する点にあった。しかし、教員一年目当時の私には、実際に現実を動かすプレイヤーである実務家と接する機会がほとんどなかった。また、仮に接する機会を得たとしても、実務家に貢献できる自信もなかった。

 機会の方は、その後、縁に恵まれ、企業の方々と頻繁に接する職場に移ることで、増やすことができた。この点で特に大きかった職場は二つあった。
 一つは、東京大学ものづくり経営研究センターである。教員二年目から二年間勤めたこの職場は、フィールドワークを徹底的に用いて研究を行うカルチャーを持つセンターであった。在職時は、二週に一回程度の高頻度で企業を訪問し、インタビューをし、工場などの現場見学を行う形で、リサーチを進めていた。大学院時代、データ分析で研究を行っていたために、企業への訪問経験が全くなかった私にとっては、大きな転機となった。以降、研究者としてはすっかり現場派となり、数で言えば、現在までに国内外三百を超える企業の拠点を訪問し、調査させて頂いた。
 もう一つは、言わずもがなだが、理科大MOTである。MOTでは、教員四年目から非常勤講師(本務校は別の大学)として科目を持たせて頂き、三年後に専任教員となった(ちなみに現在専任としては四年目にあたる)。経営学者としての職務の二本柱は、研究と講義である。MOTの教員になることで、研究だけでなく講義やゼミにおいても、実務家に接触できるようになった。
 
 以上のように、機会の方は、これ以上にないスピードで増やすことができた。その一方で、自信の方は? 残念ながら、機会と同時並行的には増していかなかった。むしろ、初期のうちは、機会を重ねることは、自信を失う方向に寄与した。研究でインタビューする相手の多くは、社長や拠点のトップであり、MOTの学生も平均年齢は40代強と30代の私より年上、しかもその多くは文系ではなく理系である。「プレイヤー(=実務家)としての経験もなく、しかも年齢も若い自分が、経験豊かなプレイヤーに対し、一体どのような形で貢献できるのか」という素朴な疑問は、増すばかりであった。
 ところが、機会は、しばらくすると、上記の問いの解を導き出すための手掛かりを提供してくれ始めるようになる。インタビューを受けてくれた方々や講義やゼミを受講してくれたMOT生の一部から、懇親会などの席で、私の貢献の柱になりそうな点をコメントして頂けるようになったのである。
 「(私の講義を受けていると、あるいは、私とディスカッションをしていると)自分が今重要だと考えている課題が明確になる。マネジメントのどのジャンルに属する問題かが明らかになり、全体の中に位置づけられるようになる。実務家は、課題を吟味・俯瞰する前に、目先の対策案に先走りがちなので助かる」、「具体的な対策のアイデアは提供してくれない。しかし、キーとなる抽象的な言葉や理屈を教えてくれる。それは対策案を自分で考える際に貴重なアイデアの源泉となる」、「自分がやってきたこと・やりたいことを、適切な言葉や理屈に翻訳してくれる。これは例えば、ビジネス本や世論で主流になっていることと異なるやり方を採用していた場合・しようとする場合に、ありがたい。言葉や理屈がないとやはり不安になるので」・・・。
 課題の吟味と位置づけ、経営学・経済学に存在する抽象的な概念・論理の活用、適切な言葉の探索、現実・現場からの帰納的な理論構築。振り返ってみると、これらは大学院時代に指導教官の先生から徹底的にトレーニングを受けたことであった。
 プレイヤー経験のないことにいくらコンプレックスを抱いても、何も始まらない。むしろ、プレイヤーが経験していない学者としての経験を如何に貢献に繋げるか、を考えることが、結局は実務家出身の先生との差別化となり、何よりも自分の貢献を最も高める方向性となる。インタビュイーやMOT生からのコメントは、それに気づくきっかけを与えてくれた。
 ここ数年で、ようやくスタートラインに立てた気がする。これからは、講義やゼミでは、上述した方向性をより意識しつつ、実務家の方々と触れ合っていきたい。一方、研究の方では、インタビューの中で相手に貢献するだけでなく、研究成果を発信する形でも貢献していきたい。志史というテーマと紙幅の関係上、今回は研究内容を詳述できないが、私の専門である中小企業論や国際経営論には、流行りのビジネス本の内容とは異なるパターンで成功している事例が存在する。特に、日本企業において、欧米企業とはやや異なる成功パターンが、数多く見られた。それらの調査結果の一部は、既に著書として出版した(『中小企業の空洞化適応』《共編著、同友館》、『日本型ビジネスモデルの中国展開』《複数章執筆担当、有斐閣》、『サービスイノベーションの海外展開』《共著、東洋経済新報社》など)。しかし、未公表のものも多い。それをより積極的に世に発信していきたい。以上のような形で、さらに「実務家に貢献できる経営学者」になることを、追い求めていきたい。

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