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平成28年度MOTイブニングセミナー 新市場を切り拓くマーケティング第2回「新市場を切り拓くマーケティング発想」を開催(8/23開催報告)

2016/09/23掲載

平成28年8月23日(火)、神楽坂校舎「PORTA神楽坂」にて、平成28年度MOTイブニングセミナー 新市場を切り拓くマーケティング第2回を開催しました。講演者は、東京理科大学大学院イノベーション研究科MOT専攻で「マーケティング」を担当する徳重桃子教授で、テーマは「新市場を切り拓くマーケティング」でした。講演中は数多くの受講生から活発に意見や質問が出され、活気あふれるイブニングセミナーとなりました。



【ピーター・ドラッカーの「マーケティング」の定義から「氷結」の成功理由を解説】
徳重教授は理科大MOT以外にコンサルティング会社にも所属しており、平日はSBI(=Strategic Business Insights)社の東京オフィスで、企業のシナリオ・プランニングやマーケティング戦略を支援する業務に携わっています。SBIは、1946年に設置された元は米国スタンフォード大学の付属研究所であったSRI Internationalの中のコンサルティング部門が独立した企業です。

講演の冒頭、徳重教授は自己紹介を兼ねてまずSRIについて紹介。「SRIはコンピュータマウスやインターネットの起源となるアーパネット、現在、iPhoneの音声認識に使われているSiriの原型などを開発した技術応用に強みのあるNPOでしたが、残念ながら、その高い技術で社会を変えようといった視点は弱かったかもしれません。その技術の可能性に気付き、自身が描いていた構想の重要なパーツとして上手く取り入れたのが、アップルの創始者のスティーブ・ジョブズでした。従って、SRIの歴史はある意味、反面教師の要素があるといえるでしょう。つまり、高い技術力があっても、それを社会に還元できなければ、意味がないのです。今回は高い技術をどう生かすか、そのためには、どのような視点で、どのような努力をすべきかについてお話ししたいと思います」と述べた上で本題に入りました。

徳重教授はまず、7月26日に開催された、新市場を切り拓くマーケティング第1回の「氷結はなぜ100億本を超えるヒットになったのか? 氷結が切り拓いた新市場」(講演者はキリン株式会社 事業創造部の佐野環部長)の内容から振り返りました。

「栄枯盛衰が激しいアルコール飲料市場において、15年間にわたり、消費者の支持を集め続けたことはすごいことです」と述べた上で、その理由として、まず、当時20代後半だった佐野さん自身がユーザーの立場に立ち、「自分が出張帰りの新幹線の中で飲んでも恥ずかしくない缶チューハイを作る」というコンセプトを打ち立て、その軸をずらすことなく開発し続けたこと、次に、そのコンセプトの実現に向けてマーケティングを行い、理詰めでデータの収集と分析を行い、仮説を立てたこと、加えて、情熱的な行動力や交渉力、オープンマインドさで仲間を拡大していったこと、さらに、異なるバックグラウンドを持つ4人の若手社員が集まり、チームを編成したことの4点を挙げました。

そして、ピーター・ドラッカーの「マーケティングとは、顧客の創造と社会ニーズの充足である」という言葉を紹介した上で、その定義から、氷結を見た場合、「社会でまだ実現されていないニーズを掘り起こす」という点では、マーケターである佐野さん自身がターゲット顧客であり、ニーズを実感していたこと、そして、「ニーズを充足させる」という点では、充足したいニーズのために非常に柔軟に考える一方で、核心は絶対にぶらさないことがあてはまると挙げました。

また、「自分自身がターゲット顧客であれば、ニーズは簡単にわかるだろうと思いがちですが、自分が本当は何が欲しいのかはわからないもの。必ずしも本質的なニーズをつかめていないということは往々にしてあります。そのときに、どれだけ自分の本音に向き合えるかが、実は大きなチャレンジです。また、氷結はストレート果汁にこだわっていますが、それを堅持することは大変なことであり、どこかで諦めてしまいがちです。ですから、最初に設定した充足したいニーズを貫くことも大きなチャレンジなのです」と加えました。

さらに、徳重教授は、「直感」と「論理思考」という2つのアプローチについて、氷結は、絶妙なバランスでマーケティングを進めていったことも成功要因であると強調しました。

「優れたマーケティングは、直感と論理思考の2つのバランスが取れている場合が多いと言われています。氷結では、直感的な実感やユーザーニーズというものがありましたが、それだけでは企業のトップは動きません。それに対し、佐野さんは、きちんとしたマーケティングデータ、セオリー、調査・分析に基づきトップを説得していったわけです。自分の直感をデータでしっかりと検証していったこともポイントです」と解説しました。

【イノベーションを起こすには、雷に打たれることが必要】
次に、徳重教授は、優れたマーケティングの事例の2例目として、「スタディサプリ」を紹介しました。

現在、スタディサプリには、受験サプリ、勉強サプリ、英語サプリ、英単語サプリがありますが、サービス開始当初の2011年は受験サプリのみで、大学受験のための講義をスマートフォンやPCで受講できるオンライン学習サービスでした。従って、対象者も受験を控えた高校生に限られていましたが、今では社会のニーズに応える形で、小中学生にまで顧客層を広げています。

受験サプリの生みの親は、当時リクルートにいた山口文洋氏で、現在はリクルートマーケティングパートナーズというリクルートの系列会社の社長さんです。山口氏は当時、進学情報を提供する部門でマーケティンングを担当されており、全国各地を巡っていました。その中で、さまざまな事情により、進学をあきらめざるを得ない高校生と数多く出会い、「教育格差をなくすビジネスを創る」と決意。2011年にリクルートが社内で開催している新規事業に関するコンテストで優勝し、受験サプリの事業化を果たしたといいます。「進学を諦めざるを得ない高校生との出会いは、山口さんにとっては、雷の打たれた瞬間ではないでしょうか」と徳重教授は言います。

山口氏は具体的な計画に入ります。山口氏の調査によれば、民間学習サービスを利用している高校3年生の割合は約32%で、残りの68%のうち約半分が、所得や地域により利用をあきらめている生徒でした。

そこで、受験サプリの事業化に当たり、山口氏はマーケティングデータの収集と分析に基づき、スペックを決めていきました。そして、プロの講師による20科目、3000講義と、140大学の過去3年間分の問題、23教科7年分のセンター試験というコンテンツを提供するに至りました。

その一方で、既存の塾の場合、月額3万〜6万円の授業料が相場であることから、当初、受験サプリでは月額5000円の価格設定をしましたが、受講生は集まらなかったといいます。そこで月額980円にしたところ、急速に受講生が増えていったのです。

そこで、徳重教授は、ピーター・ドラッカーのマーケティングの定義に当てはめ、受験サプリを分析。まず、「社会でまだ実現されていないニーズを掘り起こす」という点からは、「さまざまな事情によって大学進学をあきらめている高校生がいるという、自分の常識とは異なる点に引っ掛かることができたこと」、すなわち雷に打たれたことをきちんと認識し、そこからインサイト(消費者の行動や思惑、それらの背景にある意識構造を見ぬいたことによって得られる購買意欲の核心やツボ)を抽出でき、「教育格差をなくすビジネスを創造する」という考えに行き着いたことがあてはまると解説。そして、「ニーズを充足させる」という点からは、佐野さん同様、充足したいニーズのために非常に柔軟に考え最適解を探る一方で、核心はぶらさないことを挙げました。

そして、徳重教授は「自分の常識とは異なる事実にいかに敏感になれるか、そして、月額5000円に設定したものを月額980円に設定し直すなど失敗から学び、どれだけ柔軟な発想の下、最適解を見つけることができるかが大きなチャレンジとなります」と述べました。

また、直感と論理思考の観点からは、まず直感として「教育格差をなくすビジネスを創るべきだ」という思いがあり、それに対してターゲットボリュームや業界のコスト構造の分析、ターゲットの支払い可能額の調査という論理思考を加え、行ったり来たりさせることで事業を確立していったと説明しました。

その後、受験サプリは個人だけでなく、高校や小中学校、さらには海外の日本人学校からも引き合いを受け、事業を拡大。当初のBtoCからBtoBへのビジネスモデルを広げていき、現在のスタディサプリに行き着いたのです。

徳重教授はスタディサプリの例から、「山口氏のように、イノベーションを起こすには、雷に打たれる瞬間がないといけません。しかしながら、いつ打たれるかはわからないので、とにかく打たれそうな場所に積極的に行くことおすすめします」と述べました。

続けて、「対象者に寄り添い、共感することが満たされていないニーズを発見するための第一歩である」と強調した上で、「Be a user (自ら顧客に)」「Home observation(顧客の空間で語る)」「Ride Along(狭い空間で語る)」「Wine & Dine(食事をしながら)」「Community(コミュニティに飛び込む)」「Extreme User(極端な顧客に注目する)」「Last Customer(残っている顧客に注目する)」を7項目を挙げました。

そして最後に、「もう1つだけ、皆さんにお伝えしたいことは、ニーズを発見して充足させるときに、技術的な革新だけに頼らず、意味的な革新も考えて欲しいということです」と述べ、技術的革新の例としてダイソンの掃除機を、意味的革新の例をとしてロボット掃除機「ルンバ」を挙げました。ダイソンの掃除機がいくら吸引力が落ちないとはいえ、人が掃除をすることに変わりがないのに対し、ルンバはそもそも人を掃除という労働から解放しているという点で、意味的な革新をもたらしたというわけです。

「多くの場合、技術革新だけでなく、意味的革新を伴うものの方がより強いイノベーションを起こすことができると考えられています。ですから、皆さんも技術革新だけを目指すのではなく、本質的なニーズをとらえ意味の革新を探るということも是非考えて下さい」と述べて、講演を終了しました。

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