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平成26年度第5回MOTイブニングセミナー「クルマの製品企画・開発〜私の経験〜」を開催(10/22開催報告)

2014/11/03掲載

第5回MOTイブニングセミナーを、平成26年10月22日(水)、神楽坂校舎PORTA神楽坂にて開催しました。満席の会場の中、元トヨタ自動車取締役で、前大豊工業社長の高橋清八氏を講師に招き、「クルマの製品企画・開発〜私の経験〜」と題した講演を行いました。



高橋氏は、1969年にトヨタ自動車工業に入社し、技術部で振動実験、製品開発に従事されたのち、製品企画部でランドクルーザーやソアラのチーフエンジニア(主査)を担当された方です。その後は、取締役第1開発センター長、海外カスタマー本部長などを経て、トヨタ系部品メーカーの大豊工業社長を歴任されました。今回の講演では、トヨタ時代のチーフエンジニアとしての経験などを基に、トヨタにおける製品企画・開発のプロセスとそのポイントについてお話しされました。

【チーフエンジニアはクルマの製品企画・開発の主役】

高橋氏は最初に、自己紹介をかねて、トヨタ自動車工業に入社してから退職するまでの30数年間を振り返り、「クルマの製品企画・開発において、この30数年間で大きく変わった点は3点あります」と述べられました。そして、(1)コンピューターの飛躍的な進歩に伴う企画・開発ツールとしての、CAD(コンピューターによる設計支援システム)やCAE(コンピューターシミュレーション、数値解析技術)の登場と進化(2)車載用コンピューターとセンサーやアクチュエーターなどの進歩による制御の高度化、精緻化(3)厳しさを増す法規とアセスメントへの対応の変化、の3点を挙げられました。

次に、本題の「トヨタにおけるクルマの製品企画・開発の流れ」に移り、まず、トヨタにおける製品の企画・開発の特徴として、チーフエンジニア制度を挙げられました。この制度は、車種ごとに1人のチーフエンジニアを置き、チーフエンジニアに企画、設計から評価、サービスまですべてを統括させるというもので、昭和27年に初めて導入されたといいます。

高橋氏は、チーフエンジニアについて、「最初の製品企画の段階から、開発はもちろん、生産、販売、さらにサービスに至るまで、その車種に関するすべての工程に関与し、責任を負う大変な仕事です。その点から、クルマの製品企画・開発の主役はチーフエンジニアであり、オーケストラの指揮者、時にはそのクルマの社長のような存在であると言えます」と話されました。

また、チーフエンジニア制度に関しては、「通常、デザインやボディ、エンジン、シャシー、補機などの各設計者には、設計部門の上司がいて、人事評価はその上司が行います。ところが、実際の業務は、車種ごとに設置されたチーフエンジニアの指示に従います。このように、組織がマトリックスになっているため、外部の方々からは、チーフエンジニア制度の機能が、理解されにくいようです。しかし、理由を明確に説明することはできませんが、トヨタでは、このチーフエンジニア制度が極めて有効に機能していることは、疑いようのない事実なのです」と述べられました。

次に、高橋氏は、具体的な製品企画の流れについて説明されました。

トヨタでは、製品企画には、ハイブリッドカーのプリウスのように、経営トップが方向性を示してスタートさせるもの、社会的ニーズに伴うモデルチェンジ、各国における法規・アセスメントへの対応などさまざまなケースがあるといいます。しかしながら、例えば、法規・アセスメントに関しては、すぐに対応することが難しいため、常に先行して技術開発を行っておく必要があると同時に、そもそも先行して開発すべき技術は何なのかについて、様々な情報から先を展望し、把握しておく必要があるとのことです。

それに対し、高橋氏は、その一つ市場調査の方法として、チーフエンジニア自らが販売先の国に出向き、それぞれの土地のディーラーから情報を入手する、現地で人気の製品を肌感覚でつかむなどを紹介されました。実際、高橋氏ご自身も、ソアラのチーフエンジニアを担当していた時代、ソアラを米国に導入する際に、米国に市場調査に出向かれたとのこと。また、2代目ソアラに関しては、日本では、高級車として評判だったにも関わらず、現地の風景の中でまったく目立たない存在であることを実感されたとのことです。そのとき、「クルマは企画・設計の段階から自ら現地に赴き、市場調査を行うことが重要だと悟った」といいます。

加えて、製品は、企画から生産までに3〜4年かかる上、販売後5〜7年は使われ続けられるため、製品企画を行う際には、10年先を見越して考える必要があるとのこと。それに対し、高橋氏は、「現時点の市場調査の結果データを参考にすることは大切ですが、それを鵜呑みにするのではなく、データの中に隠されているヒントを読み解き、先を予測、展望することが重要です」とアドバイスされました。

このようにして、製品企画が提案され、全社でオーソライズされると、次は、開発部門にバトンが渡されます。高橋氏は、「ここからがいよいよ、チーフエンジニアの力の発揮のしどころです」と述べられ、次に、技術部門におけるチーフエンジニアの役割について話されました。

【チーフエンジニアほど男冥利に尽きる仕事はない】

チーフエンジニアは、技術部門に製品企画を展開するため、まず、チーフエンジニアにとって、最も重要な仕事である「チーフエンジニア構想(CE構想)」を作成するといいます。この中には、デザイン、製造コスト、生産工場、法規・アセスメント、搭載する新技術や新機構、営業活動など、これから開発する新車種に関するあらゆる構想が盛り込まれているとのこと。展開後は、関係部署と開発スケジュールを詰めながら、CE構想をブラッシュアップしていきます。CE構想が完成しオーソライズされれば、いよいよ正式な開発のスタートです。

高橋氏は、クルマにおけるデザイン決定のプロセスについても紹介されました。

デザインに関しては、まず、コンセプトに基づき、各デザイン担当者がアイデアスケッチを行い、レンダリングを作成していくとのこと。そして、5分の1の大きさのクレーモデルを作成します。さらに、クレーモデルを基に、3次元データを作成し、実物大のクルマをスクリーンに映し出し、クルマの完成イメージを見ながら、検討を重ねていくとのことです。デザインが固まれば、フルスケールのクレーモデルを作成。そこに、外装を施すことで、実車と変わらないクレーモデルを作り上げていくとのことです。

高橋氏は、「このプロセスが、コンピューターを使っていなかった時代と比べて、各段に進化しています」と紹介されました。加えて、以前は、製品カタログに掲載するクルマは、すべて実車を使っていましたが、現在は、3次元データから作成されるとのことです。

また、性能試験においては、CAEの進化により、衝突実験に関する検討が、より容易かつ精密に行えるようになったとのことです。ドライブシミュレーターによる性能試験も行うそうで、ここでは、初心者による運転や酒気帯び運転など、実際に実験できない運転を検証していくといいます。そして、最終的に、試作車にGOサインが出れば、いよいよ工場での生産に入るということでした。

最後に高橋氏は、講演のまとめとして、「クルマは大きな社会的責任を負っていますので、部品も含めて、クルマに関する企画・開発者は、ときどき原点に戻り、自分が担っている責任の重さや課せられた役割を考える必要があるでしょう。また、グローバル展開する際には、現地に赴き、各国の生活や文化に直接触れ、ユーザーニーズを肌感覚で捉えることが大切です」と述べられました。そして、「チーフエンジニアほどやりがいのある、男冥利に尽きる面白い仕事はありません」と話され、講演を終えられました。

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