MOT73026
マネジメント領域:ビジネスエコノミクス
伊丹 敬之・岸本 太一
1・2年次 選択2単位 前期 火曜日 6時限/後期 木曜日 7時限

【授業の概要・目的・到達目標】

概要:企業というものは市場経済の中でどのような存在なのか。そして企業成長やイノベーションのための企業行動の背後にどのような経済的な論理があるのか。どんな経済的論理が成立する場合でないと、成長もイノベーションも興せないか。
 これらの疑問に答えるような企業に関する経済学の基本論理を内容とする講義を行う。全体の内容は五つの部に分かれる。第一部が製品市場における企業行動の基本論理。第二部が企業の雇用と資本の構造(インプット市場との構造的関係)、第三部が企業の効率(前期)またはマクロ環境と企業(後期。前期と後期で内容が異なる)。第四部が企業成長の論理。第五部がイノベーションの発生メカニズム。
 なお、前期の第三部「企業の効率」の講義の内、二回をデータ分析にあてる。企業の利益率のデータ分析を行うことを通して、統計分析への簡単な入門もこの講義の一部としたい。

目的:現実の企業を外からの目(市場経済の目)で大きく捉えて、企業の基本構造(雇用構造、資本構造)や市場行動、マクロ環境の影響、さらには企業成長とイノベーションの論理をきちんと理解することを目的とする。こうした「大きな理解」をもった上で企業内部のマネジメントの手法の意義を考えるようになれば、視野を大きく持ったMOTが実践できるようになるであろう。MOTは技術によるビジネスエコノミクスの実践、という理解も可能であろう。

到達目標:この講義が終わった後、自社の事例や、マスコミ等で読む他社の事例に関して、その背後にどんな経済論理があるか、あるいはどんな論理の欠如が問題か、その見当がつくようになるような状態に学生が到達することが目標である。

【評価】
最終レポート45%、授業中の小レポート30%、授業での議論への参加・貢献25%

<基準>
S評価:到達目標を十分に達成し、極めて優秀な成果を収めている。
A評価:到達目標を十分に達成している。
B評価:到達目標を達成している。
C評価:到達目標を最低限達成している。
D評価:到達目標を達成していない。

以上の割合・基準にて、評価をする。

【履修にあたっての注意】
講義は議論中心となる。事前リーディングについての議論はするが、講義はしない。リーディングアサインメントを読まずに参加しても意味はないので、必ずきちんと予習をし、事前課題への小レポートあるいはリーディングについての疑問メモの提出が隔週ごとに割り当てられるので、その準備をしてくること。小レポートや疑問メモは、授業日前日までの事前メール提出を求める。小レポートをクラスで配布して議論の材料とし、また疑問メモに答える形でリーディングの内容の補足議論をする。小レポート提出と疑問メモ提出は、受講者にとって隔週となるように、小レポートの担当回を第一回の講義の際に決める。
 第1回にも、全員に提出してもらう事前課題がある。この点については、MOTホームページ学生・教員向けサイトの講義資料一覧の部分に「第1回事前課題について」というプリントをアップするので、そちらを参照し、作成してきてもらいたい。
 なお、以下のシラバスにはケースなどで未定のものがあるが、第1回の講義の際にすべてのアサインメントを詳しく記載したプリントを配布する。

【準備学習・復習】(準備学習と復習に必要な時間は1科目あたり合計45時間程度が目安)
準備学習としては、事前に指定されたリーディングを読むことと、自分が担当に当たった週のレポートあるいはメモの作成提出がある。復習としては、クラスで配布されたプリントや資料、学生が作成したレポートを読み返すとよい。

【教科書】
青木昌彦・伊丹敬之著『企業の経済学』 岩波書店(経済学と以下では呼ぶ)
伊丹敬之・加護野忠男著『ゼミナール経営学入門 第3版』 日本経済新聞社(ゼミナールと以下では呼ぶ)
伊丹敬之著『イノベーションを興す』 日本経済新聞社(イノベーションと以下では呼ぶ)
 なお、以下の本の一部や論文をリーディングとしてアサインするが、それらのリーディング資料のプリント配布については、第一回の講義にて詳しく説明する。
伊丹敬之・軽部大編著『見えざる資産の戦略と論理』 日本経済新聞社(見えざる資産と以下では呼ぶ)
伊丹敬之著『経営を見る眼』東洋経済新報社(見る眼と以下では呼ぶ)
伊藤元重著『入門経済学(第3版)』 日本評論社(後期のみ。入門経済学と以下では呼ぶ)
伊藤元重著『ゼミナール国際経済入門(改定3版)』 日本経済新聞社(後期のみ。国際経済と以下では呼ぶ)
中谷巌著『入門マクロ経済学(第3版)』 日本評論社(後期のみ。マクロと以下では呼ぶ)
西内啓著『統計学が最強の学問である[実践編]』 ダイヤモンド社(前期のみ。統計学と以下では呼ぶ)
辻本健二著「生産性経営論」『産研論集』,41,p.3-14,関西学院大学
以上の他に、講師が作成した補足プリントや雑誌記事、データ分析演習用のデータセット等を、多数使用する。

※ 青木・伊丹の教科書は絶版だが、中古で手に入る可能性がある。この本の中の該当章は、pdf資料を配布する。

【参考書】
特にない。ビジネスエコノミクスの一般的な教科書を参考にしてもいいが、この授業のような視点から書かれた本はほとんどない。

【授業計画】
前期
項目
講義内容
1 ビジネスエコノミクスとは何か?
【オリエンテーション】
企業とは、何をしている存在か?
キー概念:技術的変換、市場の中の企業、組織体としての企業
リーディング:経済学 第1章、見る眼 第4章
ケース:自分の会社の技術的変換とは
2 生産量と価格の決定
【製品市場での基本行動 
合理的に価格と生産量を決定するためには、どのようなことを考える必要があるか?
キー概念:費用関数、需要関数、限界費用、限界収入、学習価格、浸透価格
リーディング:経済学 第2章
ケース:受講生各人が調べてきたユニークな価格設定の事例
3 製品差別化とコストダウン努力
【製品市場での基本行動◆
製品差別化への支出とコストダウンへの支出のバランスを巧くとるためには、どのようなことを考える必要があるか? 
キー概念:製品差別化弾力性、コスト弾力性、マーク・アップ率
リーディング:経済学 第3章(一部)
ケース:未定
4 雇用構造の選択
【インプット市場との構造的関係 
最適なコア社員の雇用量と雇用慣行を選択するためには、どのようなことを考える必要があるか?
キー概念:インセンティブ、リスク、参加と所属
リーディング:ゼミナール 第8章
ケース:未定
5 資本構造の選択
【インプット市場との構造的関係◆
最適な資本構成(株主資本と負債の比率)と株主構成を選択するためには、どのようなことを考える必要があるか?
キー概念:財務的リスク、税引後現金流出、資本コスト、経営独立性
リーディング:ゼミナール 第7章
ケース:未定
6 経営資源の生産性と企業の利益率
【企業の効率 
企業の効率を測る指標には、それぞれどのような意味が込められているか? 各指標はどう関係しているか?
キー概念:労働生産性、資本生産性、付加価値率、利益率
リーディング:生産性経営論
ケース:受講生が勤めている各企業の生産性と利益率
7 平均値の差の検定 データ分析演習
【企業の効率◆
A群とB群の平均値には、本当に差が存在するか?
キー概念:平均値、分散、サンプルサイズ、P値(t値、F値)
リーディング:統計学 第1章と第2章(一部)
ケース:各産業の日米トップ企業の利益率平均値
8 重回帰分析とグラフの活用 データ分析演習
【企業の効率】
因果関係分析の手法としての回帰分析
キー概念:回帰係数、決定係数
リーディング:統計学 第3章(一部)
ケース:日米における為替と内需の利益率水準への影響
9 生産規模拡大による成長
【企業成長への行動 
一つの事業の規模拡大による成長の基本論理
キー概念:規模の経済、深さの経済
リーディング:見えざる資産 第9章(一部)
ケース:サムスンのDRAM事業
10 垂直的統合と中間取引
【企業成長への行動◆
垂直統合による成長の基本論理。系列取引には、どのような便益と費用が存在するか? 
キー概念:組織の経済、取引コスト
リーディング:経済学 第5章
ケース:日産自動車
11 多角化による成長
【企業成長への行動】
別の事業分野への進出(多角化)による成長の基本論理
キー概念:範囲の経済、リスク分散
リーディング:経済学 第4章
ケース:アマゾン
12 国際化による成長
【企業成長への行動ぁ
国際的進出による成長が成功する基本論理。国際的最適立地はどのように決まるか?
キー概念:国によってちがう市場環境、技術など経営資源の移転
リーディング:ゼミナール 第6章
ケース:ニコンとキャノンのミラーレス一眼レフカメラ事業
13 企業買収と事業構造の再編成
【企業成長への行動ァ
企業買収による成長の基本論理。買収価格はどう決まるか?
キー概念:買収価格、事業合理性、組織合理性
リーディング:ゼミナール 第5章
ケース:未定
14 イノベーションの不均衡ダイナミズム
【イノベーションの発生メカニズム 
イノベーションは不均衡が引き起こす。そのメカニズムの論理。
キー概念:イノベーションのインプット、外的誘因、内的誘因
リーディング:イノベーション 第10章、経済学 第11章(一部)
ケース:トヨタプリウス
15 組織は蓄積する、市場は利用する
【イノベーションの発生メカニズム◆
国の企業システムの違いは、イノベーションの発生メカニズムにどのような違いを与えるか?
キー概念:知識・企業システム・イノベーションのダイナミクス
リーディング:イノベーション 第11章、第12章
ケース:日本におけるベンチャー活動、シリコンバレー
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後期
項目
講義内容
1 ビジネスエコノミクスとは何か?
【オリエンテーション】
企業とは、何をしている存在か?
キー概念:技術的変換、市場の中の企業、組織体としての企業
リーディング:経済学 第1章、見る眼 第4章
ケース:受講生が勤めている各企業
2 生産量と価格の決定
【製品市場での基本行動 
合理的に価格と生産量を決定するためには、どのようなことを考える必要があるか?
キー概念:費用関数、需要関数、限界費用、限界収入、学習価格、浸透価格
リーディング:経済学 第2章
ケース:受講生各人が調べてきたユニークな価格設定の事例
3 製品差別化とコストダウン努力
【製品市場での基本行動◆
製品差別化への支出とコストダウンへの支出のバランスを巧くとるためには、どのようなことを考える必要があるか? 
キー概念:製品差別化弾力性、コスト弾力性、マーク・アップ率
リーディング:経済学 第3章(一部)
ケース:受講生が勤めている各企業
4 雇用構造の選択
【インプット市場との構造的関係 
最適なコア社員の雇用量と雇用慣行を選択するためには、どのようなことを考える必要があるか?
キー概念:インセンティブ、リスク、参加と所属
リーディング:ゼミナール 第8章
ケース:ユニクロ
5 資本構造の選択
【インプット市場との構造的関係◆
最適な資本構成(株主資本と負債の比率)と株主構成を選択するためには、どのようなことを考える必要があるか?
キー概念:財務的リスク、税引後現金流出、資本コスト、経営独立性
リーディング:ゼミナール 第7章
ケース:未定
6 企業の生産性と利益率
【インプット市場との構造的関係】
企業の効率を測る指標には、それぞれどのような意味が込められているか? 企業の本源的資源の捉え方と効率指標の関係
キー概念:労働生産性、資本生産性、付加価値率、利益率
リーディング:生産性経営論
ケース:受講生が勤めている各企業
7 マクロ経済変数と企業の投資
【マクロ環境と企業 
マクロ経済変数とは何か? それらは企業にどういう影響を与えるか?
キー概念:財政政策、金融政策、乗数メカニズム、利子率
リーディング:入門経済学 第10章と第13章(一部)、マクロ 第17章(一部)
ケース:アベノミクス
8 為替レートの推移と企業行動
【マクロ環境と企業◆
為替レートはどのような要因によって、どのように決まるか? 為替の変動はどのような影響を与えるか?
キー概念:物価、金利、経常収支、為替予想、美人投票
リーディング:国際経済 第2章(一部)
ケース:2013年以降の急激な円安
9 生産規模拡大による成長
【企業成長への行動 
一つの事業の規模拡大による成長の基本論理
キー概念:規模の経済、深さの経済
リーディング:見えざる資産 第9章(一部)
ケース:サムスンのDRAM事業
10 垂直的統合と中間取引
【企業成長への行動◆
垂直統合による成長の基本論理。系列取引には、どのような便益と費用が存在するか? 
キー概念:組織の経済、取引コスト
リーディング:経済学 第5章
ケース:日産自動車
11 多角化による成長
【企業成長への行動】
別な事業分野への進出(多角化)による成長の基本論理
キー概念:範囲の経済、リスク分散
リーディング:経済学 第4章
ケース:アマゾン
12 国際化による成長
【企業成長への行動ぁ
国際的進出による成長が成功する基本論理。国際的最適立地はどのように決まるか?
キー概念:国によってちがう市場環境、技術など経営資源の移転
リーディング:ゼミナール 第6章
ケース:味の素
13 企業買収と事業構造の再編成
【企業成長への行動ァ
企業買収による成長の基本論理。買収価格はどう決まるか?
キー概念:買収価格、事業合理性、組織合理性
リーディング:ゼミナール 第5章
ケース:サントリーのジム・ビーム社買収
14 イノベーションの不均衡ダイナミズム
【イノベーションの発生メカニズム 
イノベーションは不均衡が引き起こす。そのメカニズムの論理。
キー概念:イノベーションのインプット、外的誘因、内的誘因
リーディング:イノベーション 第10章、経済学 第11章(一部)
ケース:トヨタプリウス
15 組織は蓄積する、市場は利用する
【イノベーションの発生メカニズム◆
国の企業システムの違いは、イノベーションの発生メカニズムにどのような違いを与えるか?
キー概念:知識・企業システム・イノベーションのダイナミクス
リーディング:イノベーション 第11章、第12章
ケース:日本におけるベンチャー活動、シリコンバレー
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【備考】